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《入山教授 ✕ 留目真伸 対談》 SUNDREDを1年続けてわかった「新産業づくり」の秘訣

2020/9/17(木)、SUNDREDのイベント『Industry-Up Day: Autumn 2020』が、東京ミッドタウンタウン日比谷・BASE Qを会場にしてオンラインで開催されました。

これは2019年に始動したSUNDREDの年に2回の大型カンファレンス。前回(2月)のイベントで紹介した3つの新産業テーマの進捗に加え、新たに3つの新産業テーマの内容、そして新たな取り組みも発表されました。

SUNDREDが手掛ける個別の新産業テーマや新たな取り組みについては、改めてこのnoteで紹介していきますが、この記事ではこのイベントにおける基調講演をレポートします。今回は、SUNDRED代表の留目真伸と早稲田大学 ビジネススクールの入山章栄教授との対談。「日本でイノベーションが起こらない理由」「なぜ、日本は先進国の中でもっとも生産性が低いのか」というテーマで、冒頭からトークは大盛りあがりです。

産業が生まれないから日本は成長しない

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留目:自分が社会で働き初めてからそれなりに頑張ってきて、Lenovoでは本社の戦略部門のエグゼクティブとして業界再編を仕掛けたり、Lenovo Japanの社長もやりました。日本一のPCメーカーというプレゼンスもつくれたし、シェアも著しく伸ばし、日本の研究開発の力も示し、製品も良くなり価格も安くなった。でも振り返ってみて、この30年間、日本経済はほとんど成長していないことに気づきました。30年も成長しないって、一体どういうことなんだろうか。自分が頑張ってやってきたことは何だったのだろうか。

こう考えたときに、SUNDREDがいま取り組んでいる「新産業づくり」というアイディアに行き着きました。事業や会社をつくっているだけじゃ足りない、産業をつくらないとダメなんだ、ということなんですね。

入山:いま世界の時価総額ランキングに入っているのはGAFAにしろアリババ、テンセントにしろ、ここ20年で創業したスタートアップなんですよね。さらに言うと、全部新しい産業の会社なんです。そう考えると、日本でイノベーションが生まれないというときに、スタートアップも大事なんですけど、単純に新しい産業が起きていないとも言えるわけです。それが平成の失われた30年の要因ではないかな、と。

留目:まさに、その問題意識からSUNDREDの新産業づくりが動き出しています。

入山:経営学に「経路依存性」という考え方があります。日本の既存の産業は成熟しているわけですが、そういうところはいろんなステークホルダーがそれぞれがカチッと噛み合って、スムーズにまわってきた。だから、一部分だけ変えようとしても壊れないし変わらない。

いま、日本で新しい産業をつくるとすれば、この経路依存性を無視して、まったく新しいものをつくるという考え方が必要になってくる。これはものすごく大変なことだけど、これくらいの視座で取り組まないと進まないだろうなとも思う。なので、SUNDREDの狙いはすごいと思っています。

留目:私がLenovo Japan時代に携わった商品にタブレット端末があります。これ、商品としてはすごい簡単で単純で、単価も安い。なんですが、売るのは本当に大変でした。Lenovo Japanがもともと持っていた販売ネットワークにそのまま流すだけではダメで、複数の会社とデジタルトランスフォーメーションを仕掛けて新たな市場をつくっていかなければならなかったんです。入山先生のおっしゃる「一部分だけ変えても上手くいかない」というのをまさに実感した感じで。

で、こんな大変なこと、面白がれる人間がやらないと動かないなと思って社内・社外から有志を集めて、夏に海の家を運営してタブレットのユースケースを示すなんて新しいこともやりました。振り返れば、これが産業づくりの原体験ですね。

入山:留目さんは、そういう経験があるから新産業づくりに取り組めるんですね。

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新産業を生み出す3つのポイント

入山:SUNDREDが始動して1年くらいですが、そもそもその間に12個の新産業を立ち上げているっていうのがもうワケがわからない(笑)。月イチで産業を立ち上げているという。

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留目:SUNDREDでは100個の新産業をつくることを目指しているので、まだまだですが(笑)。で、1年間やってきた中で見えてきたのが上の図です。ここに、SUNDREDが新産業を量産できる秘訣が含まれています。

入山:なるほど。

留目:SUNDREDでは新産業づくりで3つの観点を大切にしています。1つ目は「人々の関心が、物質的な価値から心身的な価値に向かっている」ということ。それが四象限の上2つ、Health CareやSelf Developmentの領域ですね。そしてこれらは無形のサービスなので、データ基盤がないとサービスが作れない。AIでアルゴリズムが生まれたりデータ分析で因果関係が見えてきて初めてサービスが作れる。ここは間違いなく、これからの成長領域です。

同時に物質的な下2つの領域「Asset」「Environment」、これらも依然として大きな産業のタネになり得るわけですが、上の「心身的な領域」を意識してビジネスを考えていくことが必要です。例えば、「健康になれる不動産」「セルフディベロップメントにつながる衣食住」といった発想に切り替えていくべきです。

そして2つ目は、人々の価値基準が大きく変わってきています。産業そのものが、マトリックスの右に並んでいる「セルフアウェアネス」「レジリエンス」「サステナビリティ」「ハピネス」という新しい価値基準を組み込んだものになっていく必要があります。例えばハピネスで言うと、部下を痛めつけたり、誰かの苦痛や我慢に基づいて提供されるようなサービスは、生活者がNOと言い始めていると思います。

そうした生活者における価値基準の変化を、企業などのサービス提供者も意識していこう、というのが3つ目のポイントです。サービス提供者も生活者も一緒になって、人間中心の社会を共創していこうということ。これはまさに、日本政府が提唱している「Society5.0」の考え方そのものですよね。

これらの要素の掛け算から新産業が生みだすことができると考えています。最初の頃は新産業のテーマ出しをするのに苦労していましたが、最近はこの図に基づいて考えることで量産できるようになってきています。

入山:日立製作所の矢野和夫さんにお話を伺ったときに「人類の究極の目標は不老不死か、幸せの2つしかない」とおっしゃられていて。上の4つの象限も、我々人間が根源的に欲しているものに、ビジネスとして取り組むテーマが収斂してきていると言えると思うんですよね。そういう意味ですごく共感できます。

あと新産業の名前が「ユビキタスヘルスケア」とか「ハピネスキャピタル」とか、何だかよく分からない言葉なのもすごく興味深い。新しい産業をつくるということは、既存の定義がないところを探索するということ。だから、ありきたりな言葉で表現しきれないということなんですよね。

留目:それは本当にそうで。例えば「ユビキタスヘルスケア」を「遠隔診療」と言ってしまうと、特定のイメージが強く浮かびすぎてしまって、それとはちょっと違うんだけどって思うことが多いですね。

既存の枠組みが通用しない時代になっている

入山:イノベーションってそういうことなんだと思います。スマートフォンだって、最初は誰もそう呼んでなかったですから。ちょっと専門的に言うと、一橋大学の野中郁次郎先生が唱えている「SECIモデル」というフレームワークがあって、それは「暗黙知を形式知化する」ということなんです。SUNDREDの新産業プロセスも、とりあえずの名前をつけて形式知化することで、共感する仲間が集まってきて、だんだん産業の方向性が明確になっていくし、違ってきたら名前が変わっても構わないということだと思うんです。

留目:そうなんですよね。例えばフィッシュファーム産業も、もともとは陸上養殖を単体でやっていた会社があるわけですが、じゃあ魚を育ててちゃんと出荷すればいいかというと、それだけじゃ儲からないわけです。最終的に消費者が口にするまでに、いかに付加価値を付けていけるかが大事で、そのためにはバリューチェーン全体を見直す必要があるわけです。で、これまで個別に存在していたビジネスやサービスが一つになり、交わりすることで新産業がつくられていきます。

入山:なるほど。

留目:ユビキタスヘルスケアやセルフディベロップメントなどのテーマも、個人の健康データやライフデータを安全に取り扱い交換するデータ基盤が必要ですが、これまではそれぞれのプレイヤーがバラバラに取り組んでいた。これを束ね直すことで、大きな投資領域になっていくと思います。

入山:既存の産業の垣根が完全に溶けてきている。僕が所属している早稲田のビジネススクールも、最大のライバルは他のビジネススクールではなくて、オンラインサロンだと思っています。人が集まって学びがある、という点では。これまでの常識を取っ払っていく必要がある。

留目:データを重視する時代であることは間違いないですが、必要とされるデータの種類も変わってきていますね。例えば転職するとき、昔は前職の会社名と役職を見ることが重要でしたが、いまはそれだけで人を雇えますか?って。もう無理ですよね。むしろ、それがノイズになることもある。複数の会社に属している人とか、複数のタイトルを持っている人、どれが正業といった定義のない人とかも出てきちゃっていますから、会社名と役職名だけでデータベースを作れないですよね。

入山:以前『Buisiness Insider』のインタビューで、「何をやってるか分からない人材や企業が強い」と話したら結構バズったんですけど、まさにそれだと思いますね。例えば歌手のマドンナなんかもそう。歌もダンスもそんなにうまくないし、演技もはっきりいって下手で、どれも中途半端なんだけど彼女はショービズのトップに君臨し続けている。ある意味マドンナっていうカテゴリーを作っちゃったわけです。なので彼女の適切な呼び名がないので、アイコンって呼ばれています。SUNDREDがやろうとしていることや、もしかしたらSUNDRED自体もそれと同じことなんじゃないかな。

インタープレナーという個人の力の重要性

留目:SUNDREDが掲げる新産業共創プロセスは、トリガー事業を基点に、そこからプラットフォーム事業を展開し、その上にアプリケーション事業を立ち上げることで厚みのある産業をつくっていくという考え方です。この一連のプロセスにさまざまな企業が参画していくので「共創」と言っています。

これを一年やってみて改めて強く感じたのは、自由意志で集まってきた人たちが対話することの大切さです。

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入山:明治維新のとき、日本でも新たな産業がたくさん生まれたんですが、あれってほとんど財閥が作ってるんです。なぜ財閥が早くたくさん産業をつくれたかというと、取引、特に新しいパートナーとの契約に要する時間を短縮したからという考え方があるんです。

留目:そうなんですか。

入山:経営学で「取引費用理論」というんですが、新しいパートナーと取引を始めるにあたっては、相手の信用を調べたりルールを決めたりと、いろいろ手間がかかるわけです。でも財閥という企業グループ全体でやると、多くの企業との取引経験が蓄積されていきますから早く安く進めることができるんですね。でもいまの日本は、制度もツールも整って取引費用が安くなっている。初めてのパートナーと取引する場合も障壁は小さい。だから、仲間が集まればビジネスは始められちゃうんです。そうなるとむしろ一番大事なのは、互いに共感する、それによって仲間が集まってくる、ということになってきます。

留目:まさにそういうことですね。SUNDREDはそのスピードが最近上がってきています。例えばセルフディベロップメント残業は、7月に私たちがコンセプトを思いついて、8月の頭に仲間を募集しますってFacebookに投稿したんです。そうしたらものすごい反応が来まして。お盆には早速、クローズドなワークショップやって、その月の終わりには産業化しますっていうことになりました。もちろん僕が知っている人だけではなく、知らない人もいて。やり始めると、企業も興味を持って参加してくれたりして。本当に取引費用が低いですね。

入山:新しい時代の産業の作り方ですよね、まさに。

留目:私たちはこういう人たちを「インタープレナー」と呼んでいます。目指す社会を実現するために、組織の枠組みを越えて活動する個人のことなんですが、こういう人がSUNDREDや新産業づくりのまわりに、どんどん集まってきています。

入山:インタープレナーというのは聞き慣れない言葉ですね。

留目:そうですね。でも、こういう人たちって、本当は昔からいたんだと思います。いい意味でお節介だったり、なにかのきっかけで集まると垣根を越えて会話できる人たち。例えばいまユビキタスヘルスケア産業に取り組んでいると、産業界だけじゃなくてお医者さんがいたり学校の先生がいたり、あらゆるセクターにインタープレナーがいるんです。既成の概念を越えて新産業をつくるプロセスは、産業界の人だけでもダメだし、医学界の人だけでもつくれない。そこに参画する人たちに共通した素養をポジティブに表現するために、インタープレナーと呼んでいます。

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入山:これは留目さんの造語なんですか?

留目:いい言葉を思いついたなと思って調べてみたら、名著『失敗の本質』の共著者として知られる寺本義也さんが1995年に書いた論文で、ほとんど同じ話をしているんですよ。25年も前に。

入山:経営学で言う「ストラクチャル・ホール」や「バウンダリー・スパナー」といった考え方にも近いですね。

留目:なのでインタープレナーが活躍していく仕組みを実装していくことも、SUNDREDの本業の一部なんじゃないかと思い始めているところです。これからインタープレナーが集うコミュニティを作っていきたいし、その中から新産業プロジェクトに参画したり、生み出したりしていくような流れを作っていきたい。さらにはつくり出した産業の価値を、貢献した人たちにシェアしていく報酬制度も実装しようとしています。

入山:新産業版のストックオプションみたいなものですか?

留目:まさに信託型ストックオプションという仕組みを使ってできないか、検討しています。新産業が成立すればそれは当然、経済的な価値が出てきますので、それを分配する形です。SUNDREDのプロジェクトに関わっている人の中には、会社を辞めて参画した人もいますけど、必ずしも辞める必要はない。複業や兼業など、本業と並行してできることもあると思っています。こうした仕組みづくりをしているので、インタープレナーコミュニティーに関心がある方には、どんどん入っていただきたいですね。

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※盛りだくさんだったカンファレンス全体の模様は、アーカイブ動画でも追体験が可能です。SUNDREDのコミュニティに興味のある方、大企業で新規事業に取り組む方はぜひご覧いただければと思います。

オンライン第1会場:https://youtu.be/bqXff_WeGSY
オンライン第2会場:https://youtu.be/PFinpOmJb8I
※第1会場・第2会場に分かれています。各会場のプログラムは下記をご参照ください。

【第1会場プログラム】
▶ オープニング
▶ Industry-Up Day: Autumn 2020 基調講演
▶ 新産業セッション
  ・ ユビキタスヘルスケア産業
  ・ フィッシュファーム産業
  ・ フライングロボティクス産業
▶ 新産業ネクストアクション
▶ インタプレナーシンポジウム
▶ SUNDREDセッション
▶ クロージング

【第2会場プログラム】
▶ 新産業セッション
  ・ ハピネスキャピタル産業
  ・ パーソナルデータ産業
  ・ セルフデベロップメント産業

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新産業アクセラレーター SUNDRED株式会社の公式メディア。外資系IT等で代表取締役社長兼CEOを含む要職を歴任したプロ経営者、留目真伸の『実現すべき未来』や『事業構想』メッセージ。インタープレナーや新産業共創プロジェクトの活動レポート